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母よ、あなたは強かった

埼玉県は高校入試の合格発表があったようだ。
3年前のこの日は、忘れもしない。息子が友達数人と合格発表を見に行って、ひとりだけ不合格になってしまった。まったく予期せぬ結果に、慌てて仕事を休んで、預金を降ろして、私立H高校の入学手続きに出かけた。息子の母校となることが数時間前に決まった高校の事務室前には、同じように公立校に刎ねられた、と思われる親子連れが、無言のまま長い行列を作っていた。親のほうは怒ったような表情で毅然と唇を固く結んで前を直視し、子どものほうはいずれも下を向いて、首をかしげたり、他人と目を合せないようにしていた。

自分の高校入試のときのちょっとしたエピソードである。
当時、埼玉県の県立高校の合格者の氏名が地元の埼玉新聞の特別号にすべて掲載された。
だから、直接高校に行くまでもなく、キオスクで埼玉新聞を購入すれば、自分の合否などは簡単に知ることができた。現在では、このような特別号は発行されていない。埼玉新聞が一年で一番売れる日だったのだ。
しかし、その日、その新聞に僕の名前がなかったのである。僕の受験したO高校は自分の中学から一人きりの受験だったため、先生が「保護者同伴で合格発表に行くべし」とのお達しをしていたため、母親とふたりで列車に乗り込んだ。(電車でなくて「列車」というのが、自分の住んでいた町がいかに田舎だったかわかるでしょう。)
車内で自分の氏名がない、ことに気づいた僕は、がっくりと肩を落として、うつろな視線を周囲に投げかけていたのではないか? と思う。 滑り止めの私立J高校には合格していたものの、第一志望だった都内の私立K高校にはまったく歯が立たなかった。
「次の駅で降りて帰ろうか」
蚊の鳴くような声で僕は母親に言った。
「万が一、っていうこともあるから、取りあえず、行ってみようよ。ダメでもいいじゃない。お母さん、たまに都会に出て行くんだから、なにか美味しいものでも食べてからJ高校の入学手続きに行かなくちゃね。お母さん、まだ学校見たことないから」
母親としては精一杯の元気づけだったのだろう。表情は、こわばっていたように思う。
駅の改札を出て、O高校までの道のりがなんと長く感じられたことだろう。
前からやってくる受験生のグループや親子連れのあるものは嬉々とした笑みを浮かべ、あるものは涙ぐみながら母親に背中を抱えられ・・・。
ダメなんだ、とわかっていても、校門をくぐり、学生服姿でごったがえす掲示板が見えると、自然と小走りになっていた。
「514番」今でも覚えている受験番号だ。「来いよ」と高校が誘ってくれている。いい番号だと思った。 はたして、掲示板にその受験番号はあったのだ。 僕は半信半疑のまま、母親に抱きついていた。 母親の身体は思ったよりも、とても小さく、軽かったので、かなり驚いたものだ。 地獄から天国だった。 何度も掲示板と受験票を見比べた。
事務室に行って入学に必要な書類を受け取った。封筒に確かに僕の名前が記入してあった。間違いない。公衆電話で家に電話を入れた。祖母の「よかった、よかった」の声の後ろで、その半年後に他界する祖父が「うぉ~」と奇声をあげたのがわかった。
 駅前商店街の蕎麦屋で天ぷらそばを食べた。店主が母親の持っていた封筒を見て「○○高校に入ったのかい? これから、ひいきにしてくれよ」とニコニコを声をかけてくれた。店内にいた他のお客さんも「おめでとう」と声をかけてくれた。「ちゃんと勉強して、いい大学に入ってね。決して、こういう蕎麦屋さんみたいになっちゃだめよ」と店のおばちゃんが店主を指差して言った。野球部で甲子園に出場したこともあるというOBなのだという。
 2時過ぎに中学に行き、職員室のドアを開けると、担任のK先生(なんと、既出の野球部顧問兼監督である)が飛んできて、「がっかりするなよ。J高校だっていい学校だよ」と慰めてくれる。
埼玉新聞に僕の名前がなかったし、全然連絡がなかったので、茫然自失となって、どこかを彷徨っているんじゃないか?と心配していたのだという。
そうか、しまった。学校に連絡するのを忘れていた。と、いうよりも、中学には、誰が合格したとか不合格だったという情報が高校や県の教育委員会から入っているものだとばかり思っていたので、こちらとしては、慌ててしまった。
「先生、僕、合格してました。新聞には名前はなかったんですけど・・・」
「そうか。よかった、よかった。いや、お前と一字違いの名前の奴がいたんで、もしかしたら、と思っていたんだが、新聞の誤植だな。埼玉新聞に抗議しなけりゃな」
自分と一字違いの氏名が掲載されていたことは知らなかった。もっとも、どういう情報源から埼玉新聞は合格者の氏名を把握できるのか知らないが、ある高校はカタカナだし、ある高校は漢字で公表されていたように思う。
とにかく、母親の一言がなかったら、僕の母校は変わっていたし、もしかすると、多分当然だが、進学した大学も、就職先も今とは違っていたかもしれない。
う、う~ん。母よ、あなたは強かった。と20年前に他界した母親に感謝!

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