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男の陣痛

 9月の声を聞いた途端、秋の気配である。
 「衣替え」のせいだろうか? スーツ姿の人がやたらと目についた。 これはこれで季節の移り変わりを嫌が応にも感じさせる立派な季語であろう。

 今日は長男の19回目の誕生日。 19年前、前日の夜に破水していたので、9月1日に生まれることは間違いない、という状況になっていた。
「小澤征爾と同じ誕生日かア~。将来は指揮者にでもしようかな」
 病院がキリスト教系だったせいなのか(?)男女を事前に教えてくれなかったので、8月31日の深夜から1日の夜明けまで一睡もせずに生まれ来るこどもの名前を考えていたモノだ。(しかし、なぜか思い浮かぶのは女の子の名前ばっかりだったなあ。) 

 9時30分過ぎに「今、陣痛が始まりました。」と病院から電話が入り、細君の母親(自分の母親は二年前に他界していた)を連れて病院に行ったのが11時。 すでに分娩室に移動した後であった。 これから何時間、分娩室の前の廊下を行ったり来たりするのかいな?とソファに腰を下ろした、と同時にドアが開いて、
「おめでとうございます。男の赤ちゃんです。」
 看護婦さんが頼りない泣き声を上げている真っ赤かの物体を私の腕に手渡したのであった。
 まさかそんなに早く?人違いでは?と辺りを見渡してみても他にそれらしい人はいない。恐る恐るモゾモゾとうごめく我が子を抱いて立ちすくんでいると、「ホラ、パパに元気な産声を聞かせてあげなさい」と担当の女医さんがこどもの足の裏をつねった途端、テレビドラマの出産シーンでお馴染みの泣き声が。
 恐ろしいほどのスピード出産であった。(弟の長女が生まれたときは、逆に難産で、産室に入ってから9時間もかかったため、義妹の顔がゲッソリとやつれていたのに比して、細君の場合、普段と変わらなかった。) 
 しかし、みんなそうだというのだが、生まれたばかりのこどもの顔というのは、本当に猿そのもの。「ああ、やっぱり人間の祖先は猿なのだ。」と実感した。
 その顔を見た途端に、徹夜で考えた名前はすべて振り出しに戻ってしまった。
その後、一週間、日に日に変化する我が子の顔を見ながら、名前の候補を書いた手帳のページは一枚、また一枚と増えていき、結局、最初のページにあったものに落ち着いたのだ。
 私の周囲には、近所の神社で決めてもらった、という名前の人が結構いるのだが、あの一週間こそ、我が子のことを真剣に考える事始めであり、遅まきながらの産みの苦しみ、まさに男の陣痛であった。

 長男がまだ歩き出す前だったと思うが、当時ベストセラーになった三浦清宏の「長男の出家」をベッドで読んでいた。脇には件の長男がスヤスヤと寝入っている。
「もし、この子が坊さんになるために家を出ると言い出したらどうしようか?」
結構真面目に悩んだことがある。

 息子の小学校の卒業式の夜。
「おい、お前は自分の名前、気に入っているか?」かねてから気になっていたので、思い切って尋ねてみたことがある。
「お父さんが、何日も寝ないで考えてくれた名前だから大切にしなさい、ってお母さんが言ってたから、ちょっと読みにくい名前で、皆に説明が大変だけど、結構好きだよ。 ありがとう」
というのを聞いて、かなりホットしたものだ。

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