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白鳥の歌~美しき5月に

 その日は唐突にやってきた。5月18日、不世出のリリックバリトン、ディートリッヒ・フィッシャー=ディースカウの死。奇しくも、その日、僕は偶然にも、その日、車の中で聴くためのCDとして、ディースカウの唄う「詩人の恋/リーダー・クライス」(伴奏:アルフレッド・ブレンデル)を出勤前にチョイスしていた。翌日の朝刊で、彼の死を知った。虫の知らせというやつかも知れない。

 僕が彼の歌声を初めて耳にしたのは、高校時代の音楽の授業だった。週に一度の音楽の授業は2時限連続で、初めの1時限が歌唱で、2時限目は音楽鑑賞で、LPレコードや、先生が録音したNHK-FMの録音や、NHKのクラシック番組の録画ビデオの鑑賞だった。曲はシューマンがハイネの16の詩に作曲した歌曲集「詩人の恋」。それが、5月だったかどうか定かではないのだが、音楽の教科書でも初めの方に「美しき5月に」は掲載していたと思うので、多分春先だったと思う。美しくも恋の予感に胸を焦がす、不安な気持ちをにじます、透明で甘い彼の歌声に大いに魅せられた僕は、このシューマンの歌曲集と彼が生涯の友となる予感を感じた。1974年、高校1年の春に聴いた録音だったから、多分、伴奏はエッシェンバッハだったのか、それとも来日公演時の小林道夫氏の伴奏だと思うのは、音楽の田尻先生が「これが49歳の人の声には思えないでしょう」と言った言葉を、何故か覚えているからだ。15歳のニキビ少年にとって、49歳の御祖父さんらしからぬ、その余りにも若々しい声に唖然としたのだと思う。

 以来、5月になると、無性にこの曲が聴きたくなる。それももちろんフィッシャー=ディースカウの歌声で・・・。それほど好きなのに、シューマン以外は、シューベルトの3大歌曲集とマーラーの「さすらう若人の歌」、僕の所有する彼のLPレコード、CDは多くない。大学時代に合唱団にいた僕にとって、その当時、一番欲しかったものは、ディースカウの声そのものだった。彼の歌い方は真似できても、彼の声質には全然近づけなかったからなあ。

 あれから38年、美しき5月に帰らぬ人となった彼・・・、まだ死因が判らないようなので、このブログにどうコメントすればよいかためらっていたのだが、あれから毎日、この曲を聴いている。こんなに若々しいのに、この声の主はもう居ないのだと思うと、この減7度の美しくも不安げに響く和音から始まるピアノ伴奏が始まると、彼の声を聴く前に、涙が出てくる。歌手の死で、こんな悲しい気持ちになったのは、1980年に亡くなった世紀のカウンターテナー、アルフレッド=デラー以来のことだ。あの時は、秋葉原の石丸電気にフランスのハルモニア・ムンディから出たばかりの彼のLPを予約していて、それを受取に行く日に、彼の死をNHK-FMの何かの番組で知ったから、余計にそんな気持ちになったのだと思う。

 いずれにしても、僕にとって、彼の白鳥の歌は「美しき5月に」なのである。合掌・・・

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